【最前線】テックの祭典「Web Summit 2017」に行ってきた

成長著しい世界的テックカンファランス「ウェブサミット」。アメリカのカウンターとして

オープンングの様子。世界170ヵ国から集まった。ただし、その多くがやはりヨーロッパからだった印象。ハンガリー、スイス、スペイン、フィンランド、イスラエル、ポルトガルほかいろんな人たちと話ができた

オープンングの様子。世界170ヵ国から集まった。ただし、その多くがやはりヨーロッパからだった印象。ハンガリー、スイス、スペイン、フィンランド、イスラエル、ポルトガルほかいろんな人たちと話ができた

11月6 日から9日まで、リスボンで行われたWeb Summit(ウェブサミット)に行ってきました。2011年にヨーロッパで始まった、ギークたちのダボス会議とも評されるテックイベント。2015年の参加者は42000人、2016年が53000人、そして今年は60000人と順調に参加者を増やしており、この分野では世界最大級のカンファランスと言って差し支えないでしょう。出展するスタートアップ企業も多く、ブースはどこも盛況で、一目に会の成功は明らかでした。ちなみにリスボンでの開催は昨年度からで、来年も同地での開催が決定しています。

スタートアップブースの様子。これはビッグデータ関連の企業向け

スタートアップブースの様子。これはビッグデータ関連の企業向け

さて、本来こういうカンファランスは産業構造的に「アメリカ(西海岸)」中心で行われそうなものですが、ヨーロッパ開催というところは含みおきしておいた方がいいと思っています。テック産業をアメリカの独壇場にはさせないぞという気概なのでしょう、EUが一枚岩になってこのカンファランスをサポートしていることが大会を通して感じられたのが印象的でした。具体的にはオープニングでの欧州委員会コミッショナーによる力強い発言がその好例。「競争はイノベーションにとって必要不可欠なドライバーだ」とは「アメリカの独占」を揶揄する辛辣なコメントと取れましたし、GoogleやAmazonを前にしながら「テックジャイアントのタックスアヴォイダンス」、「フェイクニュース」、「データの独占化」について手厳しく言及していたことは特筆しておきたいと思います。

Googleの展示ブースはアンドロイドがメイン。一方のAmazonはAWSがメインだった

Googleの展示ブースはアンドロイドがメイン。一方のAmazonはAWSがメインだった

キーワードはAI

それでは早速、以下に所感を書いていきます。プログラム全体を見るとヘルステック、ロボティクスなど注目される分野の充実度が極めて高かかったですが、仕事がらメディア、コンテンツ、マーケティング関連の講演を中心に聴いてきたので内容の偏りはご容赦ください。

なお、全体に通底していると感じられたキーワードを先に申し上げておくと、「AI」のひとことに尽きるかなと思っています。「ビッグデータ」も気になる言葉のひとつではありましたが、インテルのCEOが壇上で「ビッグデータはAIの燃料だ」と語っていた通り、「ビッグデータ」にまつわるトピックも広義に「AI」の中に入れてもいいのではないでしょうか。

インテルCEOのピッチ

インテルCEOのピッチ

これをコンテンツ、メディア、マーケティング分野の話に引き戻すと、「ユーザーデータ」と「プラットフォームのアルゴリズム」や「アドテク」の関係に相当するかと思います。後述しますが、これに対する課題は危機感を持ってかなり言及されていました。オープニングのサプライズゲストで登場した(VTRでしたが)スティーブン・ホーキング博士の言葉を借りるなら、「AIを生かすも殺すも人間次第。その進歩には大いに期待しつつ、リスクについてもしっかりと認識していかなければならない」ということでしょう(すみません、けっこう意訳です)。

オープニングのサプライズ・ゲストはスティーブン・ホーキング博士だった。会場は大盛り上がり

オープニングのサプライズ・ゲストはスティーブン・ホーキング博士だった。会場は大盛り上がり

GoogleとFacebookは敵か味方か

まずはメディアの話からですが、話題の中心となっていたのはGoogleとFacebookの2社(以下、GとFB)です。ほとんどの講演がこの2社との距離の取り方について語っていたと言っても過言ではありません。それと同時に、参加者側もGとFBの脅威に対してどう対応すればいいのか、答えを求めて聴きにきていた印象を受けました。

コンデナスト・グループ、BBC、Forbes、Recodeなど登壇者も多様なメディアから

コンデナスト・グループ、BBC、Forbes、Recodeなど登壇者も多様なメディアから

象徴的だったのが、ある講演で登壇者が「GとFBは敵だと思いますか、味方だと思いますか」とオーディエンス(500人~1000人くらいはいたと思います)に対して質問した時のこと。およそ25%が「味方」、25%が「敵」だとし、残り50%は手を挙げずに判断がつかないといった様子でまごまごしていました。僕自身も手を挙げなかった一人なのですが、現場的な感覚でいうと、GもFも少し前までは味方と言えたかもしれないけれど少なくとも今は潮目が変わった、と考えています。

個人的に敵/味方という表現はやや極端に過ぎるかなとは思いますが、少なくともパブリッシャー目線で見た時、両社とも今は「コンテンツの供給先」として味方とは言えないと感じています。FBについては1年と少し前にあったアルゴリズムの大幅変更で、パブリッシャーのリーチが格段に減りましたし、Googleの検索対策についても一筋縄ではいかなくなりました。そもそも、内容に関わらずテクニックでなんとかなっていたような状況こそが異常だったわけで、ユーザー目線でいうと、これは健全化に向けたいい動きと捉えることはできます。

ただし、カンファランス中に多く耳にしたトピックでもあるのですが、「フェイクニュース」が象徴するような課題も山積しています。ラディカルな識者は「アルゴリズム」の透明化を求めるべきだと語っていましたが、個人的に目から鱗のいいアイデアだと感じつつ、実際にプラットフォーム企業のロジックからすると叶わない夢だろうなとも思います。

いずれにせよ、ここでわかったことは、世界のどのパブリッシャーも打ち手を欠いているという現実です。検索にせよ参照にせよある時期まで甘い蜜を吸って流入を稼いできたメディアは今、全て骨抜きになっているのではと推察しています。その意味で、逆説的にはなりますが、みな不安を抱えていることには安心しました。

もちろん、それで終わってはいけません。コンテンツを作っただけではインターネットの洪水の中で埋もれて終わるだけなので、デリバリー施策を改めて見直さなくてはならない。イバラの道にはなるでしょうが、個人的に取るべき方策は限られていて、そのヒントは直接流入に対する意識改革にあるのだと考えています。詳細はここでは省略しますが、これはTAMLOの今後のコンサル活動に生かしていきたい方向性になります。(これについては、12月に東京と大阪で行うセミナー「海外向けのウェブコンテンツ戦略に必要なこと」で話そうと思っています。イベント詳細はこちら

 

ネットはその性質においてコモディティ化を誘う

一方、コンテンツについてなのですが、今回のカンファランスではヒルトンのアプリ開発とハイネケンの動画マーケティングの話、CNNデジタルの取り組みが興味深く、多くのことを考えさせられました。資本力のある企業がどんどんとテクノロジーを使った新しいチャレンジをしていてエージェンシーもプロダクションもこれを必死になってキャッチアップしていかなくてはならない、と改めて痛感させられた次第です。(これについても、同様に12月に行う別のセミナー「ロンドンに学ぶ。海外ソーシャルマーケティング事情」で触れる予定です。イベント詳細はこちら

CNNデジタルのスライド。デジタルでナンバーワンになるとの気概がとても強い

CNNデジタルのスライド。デジタルでナンバーワンになるとの気概がとても強い

エージェンシー的な見方でいうと、テクノロジーを活用したデータの分析がますます重要視されてくると思います。そして、早晩この分野はAIに置き換わるので、組織構造やコンサル内容の転換が急務になってくる。この点は想像するのも怖いのですが覚悟しておかないといけません。

一方のプロダクションについても置かれた環境は同じです。ただし、プロダクションの置かれた立場がエージェンシーと違うのは、「クリエイティブ」がまだ聖域だということです。もちろん、現在でさえAIが記事を書いたり、投稿のABテストをしたりする時代になっているので、その意味で人間の仕事は徐々になくなってくるとは思います。ただ、上に挙げたような企業は、現在、コアメッセージを携えたリッチでハイクオリティなコンテンツを作ることに注力しているので、これに応えられるプロダクションには仕事があります。そしてこの部分はAIテックにはなかなか置き換わりません。仮に置き換わるものが出てきたとしても、有能なクリエイターが世の中に一人増えたことと同義なので、大きなインパクトではない。もちろん、AI化されたクリエイティブは安価になって価格競争は生じるでしょう。ただ、安価に抑えられるということは、出来上がったもののコモディティ化を生み出すので本末転倒です。つまり、似たようなテイストの「ハイクオリティ」なクリエイティブが雨後の筍のように増えても、消費者は飽きてしまうだけなので、ブランド価値を逆に毀損するだけ。それゆえに、やはりタレントがある人間やチームがうみだすクリエイティブへの需要はなくならないと考えるのです。

このコンテンツ・クリエイティブの話は、メディアの不安やマーケティングの課題感ともクロスオーバーします。今回、お昼にたまたまテーブルで一緒になったスイスのコンテンツマーケティング会社の方達と話をしていたのですが、真っ先に話題にあがったのがブランディングメッセージを決めた後に作る「コンテンツの質」と「デリバリー戦略」についてでした。

すなわち、今はネット上に「質に疑問がある」コンテンツの相対数が増え、中途半端にクオリティの高いコンテンツがなかなか見つかりにくくなっている。だからテクノロジーの力と可能性を使ってその中途半端なクリエイティブから抜け出すか、データを駆使しデリバリーの効率化を突き詰めるか、ふたつにひとつだというのです。

個人的には、メディアもプロダクションもエージェンシーも、効率化に舵をきると、手軽なツール利用に偏重していきコモディティ化するマーケットの中で血みどろの戦いを強いられるのだろうと予想します。そう考えるとツールを開発するという道が取れない以上、やるべきことは結構シンプルなんじゃないかと思っています(笑)

 

ポルトガルのサウダージ

夕暮れのリスボン

夕暮れのリスボン

最後にリスボンの街について。ぼくは5年前にもいちどリスボンを訪れてるのですが、その時から変わらずこの街の印象はいいです。ロンドンと違って、まず歴史が圧倒的に深い。建物の違いからそれが如実にわかり、歩いているだけで感じるものがあります。そして、人々のフレンドリーさ(本当によく話しかけられた)や、ご飯の美味しさ、気候の良さ(今回はずっと快晴でした)は出色です。

ただ、一方で残念だったのが、物価と経済。街のショーウィンドーを眺めていると、5年前に比べて随分インフレになったような印象を受けました。ポルトガルといえばヨーロッパの中でも比較的物価が安いイメージはありますが、意外にもそのようなことはなく、ビックマックセット1つとってもイギリスと値段が変わらず(イギリスより美味しかったけど)。最も驚いたのが本の値段で、ペーパーバックなんかはイギリスの2倍近くしていました。また、まだまだEUのお荷物といったところから抜け出せないのか、活気の面で言うとやや寂しさを感じました。今回は6万人もの観光客がこぢんまりした首都に大挙してきたわけですからそれなりに賑やかではありましたが、そのぶんを差し引くとちょっと想像するのにげんなりします。

市内を外れ、裏通りに入るとだいたいこんな感じ

市内を外れ、裏通りに入るとだいたいこんな感じ

どこか物哀しい。が、それがいい

どこか物哀しい。が、それがいい

とはいえ、ステレオタイプかもしれないですが、そもそもリスボンって「サウダージ」(切なさ、と訳しておく)が売りの街なんですよね。この場所から生まれた大衆歌謡ファドが象徴するように、どこか物哀しい。それはネガティブな意味ではなくむしろ逆で、今回の出張ではとりわけこの「サウダージ」のおかげで沈思黙考することができたと思っています。というのもカンファランスの間は「世界は猛スピードで変わっている」とずっと聞かされ続けていたようなものだったので、焦りを覚えて思考が硬直化してしまっていたのです。それを優しくほぐしてくれたのが、日が沈んだ後のリスボンのサウダージ。このおかげでようやく自分の中でバランスが取れたのでした。

レストランでのFado(ファド)

レストランでのFado(ファド)

で、話は戻って終わりにもう一度告知です(笑)。12月に一時帰国し、東京・大阪で計6回のセミナーを行います。とりわけ、次の2プログラム「ロンドンに学ぶ。海外ソーシャルマーケティング事情」「海外向けのウェブコンテンツ戦略に必要なこと」では、散漫になりそうで書ききれなかったWebSummitの事例も披露すると思います。ぜひご参加下さい。

イベント詳細:TAMLO presents コンテンツセミナーウィーク in 東京 & 大阪

YUICHI ISHINO