「デザイン思考」ってなんだ?ヘルシンキでデザインキャンプの巻

デザインシンキングを体で理解するために

ビジネスの分野で、「デザイン思考」、「デザインシンキング」という言葉が聞かれ始めてからある程度の年月が経ったように思います。なんとなくつかみどころのないものではありますが、大まかにいうと、「ユーザーのいる現場を徹底的に観察し、そこから見えてきた課題を解決するため試行錯誤を何度も繰り返してイノベーションを生み出す」手法のこと。TAM Londonではこの根底にあるコンセプトがとても大事だと考えており、積極的にこれを取り入れています。

「デザイン思考」については関連書籍も数多く手に入るようになり、わたし自身もそのうちのいくつかを一生懸命読んできました。が、残念ながら最終的に本を読むだけではその本質を会得することが難しいな、というのが仕事をしながらの実感です。これはわたしの拡大解釈だという前置きをしたうえで、繰り返しになりますが、とにかく「現場を観察する」「試してみる」がデザインシンキングの第一歩ではないか。本を読んで終わりにするのではなく、デザインシンキングをより深く知りたければ、デザインシンキング自体をどんどん「試してみる」機会を作らないといけない!そんな思いからTAM Londonでは定期的に勉強会を催しています。

 

デザインシンキングと一口に言っても、その解釈は人それぞれですし、メソッドの数も多様。この勉強会ではさまざまなメソッドを持ち回りで試しています。

 

わきあいあいと、グループでのワークショップ風景(2017年5月)

わきあいあいと、グループでのワークショップ風景(2017年5月)

写真(上)の回は「イギリス人に、どうやって旅館のマナーを伝えるか」が課題でした。まず参加者がそれぞれにストーリーを描き、カスタマージャーニーを作成。どこでイギリス人観光客が「困難にぶつかるか」を見つけて、これを解決する方法を考えてもらいました。その後、3人一組に分かれてどの案がよかったかをそれぞれ寸評。もっともよかった案の「キャンペーンポスター」をチームでつくるというワークショップを実験しました。


「デザイン」の街、ヘルシンキで武者修行

青い空、青い海が最高に気持ちいいヘルシンキ

青い空、青い海が最高に気持ちいいヘルシンキ

そんなこんなで、自分たちのメソッドを日々ブラシュアップする毎日なのですが、先日、さらに濃密な実践の場で武者修行したいと思い立ち、ヘルシンキでデザインキャンプを行ってきました。レクチャーしてくれるのは地元アールト大学(Aalto University)でStrategy & Experience Designを教えるユースカ(Juska Teittinen)先生です。

Juska Teittinen氏。

Juska Teittinen氏。

課題は「ヘルシンキ地域交通局が新たに導入した交通チケットのユーザビリティを改善する」というもの。実は、このチケットの使い方/買い方のシステムが観光客にとって非常にわかりにくいんです。おまけにカードリーダーの使い勝手まで最悪だと評判で(笑)。「デザインといえばフィンランド!」という一般的なイメージを木っ端みじんに壊してくれます。これはいかにも「改善」の余地がある!

これが評判の悪いカードリーダー。「3」と「2」の間にある「L」の意味がまず分からない。英語記載もない(笑)

これが評判の悪いカードリーダー。「3」と「2」の間にある「L」の意味がまず分からない。英語記載もない(笑)

まず、1日目。われわれが行ったのは、「カード」と「カードリーダー」を使うペルソナの設定。「日本人の観光客A」と「地元の人B」という2つのパターンを作りました。

50代の大阪から来たおばちゃんと、30代前半の地元の兄ちゃんというペルソナ設定。実際、ヘルシンキには日本からの観光客が多いようです。

50代の大阪から来たおばちゃんと、30代前半の地元の兄ちゃんというペルソナ設定。実際、ヘルシンキには日本からの観光客が多いようです。

そのあと、カスタマージャーニーを描いていきます。Aさんはこういう理由でチケットを買って、こんなところで行き詰ってしまって……、Bさんはチケットの買い方を知っているけれど週末に来るおばあちゃんのためにチケットを買う必要があって……などなど物語をふくらませます。そうするうちに「このひと、きっとここでイライラしちゃうよね」「こんな感じだとうまくいかずあきらめちゃうかも」など、課題が見つかってきます。

基本的に「言葉」は書かず、すべて「イラスト」で表現。下手でもまったく気にしない!2列目に「感情」を描く。怒っていたり、困っていたりしているところが「改善」のポイント!

基本的に「言葉」は書かず、すべて「イラスト」で表現。下手でもまったく気にしない!2列目に「感情」を描く。怒っていたり、困っていたりしているところが「改善」のポイント!

次に、実際に自分でチケットを買い、利用してみます。自分が実験台というわけです。まさに「試してみる」を体現!さっそくキヨスクへGO!

思っていた通りにすすまない…なんだこのAWAY感は…

思っていた通りにすすまない…なんだこのAWAY感は…

……はい、ここで思い出すのも涙が出るくらい、うまくいかなかったんです。何度も言いますが、課題解決の上で自分で「試してみる」ことほど価値のあることはありません。障害の連続……この涙が「ぜったい改善してやる」というモチベーションの源泉になるんです。(そしてこれは、ユーザビリティを最優先に考えることの大切さにつながります)

結局、別のプランのカードを買ってしまった(あとから気づいた)

結局、別のプランのカードを買ってしまった(あとから気づいた)

チケットを売ってくれたキオスクのおっちゃんの説明が市内地図を理解していないとわからないものだったり、カードリーダーのイントロダクションに英語記載がなかったり、マシーン利用時のステップが4~5段階もあったり…。もう「改善」の余地ありまくり。ちなみに、どれぐらいマシーンの操作が複雑かはこちらのヘルシンキ地域交通局HPで体験できます。(https://www.hsl.fi/en/newdevices/forpassengers


「調査/分析→構成→試作→実践(テスト)」の繰り返し

さて、2日目。前日にこのサービスの圧倒的な不便さを体感したところで、ほかの人たちはどうか(観光客から地元の人たちまで)市内で一番大きな駅まで出て実地調査。「現場を観察する」です。実際にどれくらいの人たちが「使いにくい」と感じているのでしょうか。わたしたちは、カードリーダーを利用する際にかけた時間からタッチスクリーンの押し間違いにいたるまで、およそ30サンプルほどを獲得。これをもとにやはり使い勝手の悪さを再認識します。いやぁ、ほんとひどかった(笑)

 

次に、以上で見つかった「不便さ」を取り除いていくため「カードリーダー」を新たにデザインしなおす作業へと移ります。ここでも改善のためのメソッドは無限にあります。今回はこのメソッド自体も自分たちで即興でつくりました。

 

【今回試してみた方法】

①2人一組になります。(今回、このワークショップに参加者したのはTAMとThe Frameworksから各1人ずつ。ユースカさんの弟にも途中参加してもらって計4人で行いました)

②一人が口頭だけで新たなデザインを説明。それをもう一人が紙に描いていきます。(説明するほうの人は、もういっぽうがどのように描いているか見ることはできません。そこで生まれるギャップを後ほど批評しあうためです)

③デザインが完成したら、絵を描いたほうの人が、もう一方のチームにどういう改善をしてどういう利便性が見込めるかをプレゼンします。

④お互いのデザインを批評します。

➄それぞれの批評をもとに、4人でデザインをブラッシュアップ。オンラインのツールをつかって、簡単なプロトタイプを作成。今回はタブレットを疑似的にカードリーダーと見立て、プロトタイプを表示します。

プロトタイプのデザインもまずは手書き!

プロトタイプのデザインもまずは手書き!

批評しあったり、いろいろ試行錯誤を重ねて…

批評しあったり、いろいろ試行錯誤を重ねて…

じゃーん。こんな感じでシンプルに。4~5ステップあったプロセスを2ステップまで削減。

じゃーん。こんな感じでシンプルに。4~5ステップあったプロセスを2ステップまで削減。

こんな感じ

こんな感じ

さあ、いよいよ自分たちの作ったプロダクト(タブレットに入っている)を持って街に繰り出します。この日は国民が熱狂するフィンランド対スウェーデンのアイスホッケーの国際試合。パブで酔っ払った人たち(笑)に、片っ端からわれわれのデザインの「使い勝手」について感想を聞いて回ります。

アイスホッケーの試合で熱狂するパブにて。試作品に触れてもらう。

アイスホッケーの試合で熱狂するパブにて。試作品に触れてもらう。

結果は上々。「酔っ払っても、使いやすい!」という評価をもらいましたよ(笑)しかし、当然ながら、「ここをこうした方がいいんじゃない?」という指摘もありました。この先は、さらにこの改善点について議論し、プロダクトを修正していくという作業になります。つまり、一度作ってみて終わりではなく同じプロセスを繰り返していく。ユーザーにとってより良いものを開発することを目指し、「調査→構成→試作→実践(テスト)」はずっと続いていくというわけです。

 

デザイン思考をデジタルマーケティングに応用する

以上、ずいぶんと端折りましたが、今回ヘルシンキで体験したデザインキャンプの模様を紹介しました。われわれTAM Londonはデジタルマーケティングを専門に扱っていますが、お客さまと一緒に課題を解決していく際、こうした「デザイン思考」的アプローチは非常に有効だと考えています。

これからも自分たちの方法論をさらに磨き、マーケティングの分野でよりよいサービスを提供していく予定です。コラボレーションしたい、話を聞いてみたい、勉強会に参加したい、など「ピン!」と来られた方はお気軽にご連絡ください。

YUICHI ISHINO